三人官女 お内裏様にお酒を注ぐ高位の女官
女の子のお祝いの日「ひな祭り」。
段飾りのおひな様を飾るととても華やかです。
でも、この段飾りに飾られた多くのお人形のうち、女性はたった4人だけです。
おひな様と三人官女です。
それだけにきれいな袿姿が目を引きますね。
本来は官女という言い方はありません。
宮中に仕える女性は女官(にょうかん・にょかん・明治時代以降じょかん)と呼ばれました。
ここでは、おひな様の三人官女について詳しく見ていきたいと思います。
その前に、おひな様が飾られるようになった歴史から見ていきましょう。
◆ひな祭りの歴史
ひな祭りの起源は約1000年前の平安時代です。
その頃は、3月初めの巳の日を「上巳の節句(じょうしのせっく)」と呼び、無病息災を願って祓いを行っていました。
供え物をし、紙を人の形に切った人形(ひとがた)に息を吹きかけたり、或いはそれで身体をぬぐい、その後川や海に流して穢れを流し清めました。
これが「流しびな」の始まりです。
上巳の節句が3月3日になったのは、今から600年程前の室町時代だと言います。
しかし、まだ祓いの意味が強く、祝い事ではありませんでした。
一方当時も上流のお姫様達は人形遊びをしていました。紙や布で作った人形を、御殿や今のままごと道具などと一緒に遊んでいました。
この遊びと厄払いの行事がいつしか一緒になって、ひな祭りが祝われるようになりました。
それは、戦国時代が終わり、平和な社会が訪れた江戸時代に入ってからです。
記録では、寛永6(1629)年京都御所で盛大なひな祭りが行われたことが残っています。
このひな祭りが江戸城の大奥にも伝わり、ここでもお祝いをするようになりました。江戸時代半ば頃からはこの習慣が民衆にも広まり、更に地方にも広まって現在の様に女の子のお祝いの日として定着していきました。
また、女の子が生まれて初めて迎える3月3日は「初節句」として無事な成長を願い、祝う日となりました。
一時はあまりにひな人形が豪華になっていったので、幕府は華美な人形を禁じるお触れを何度も出しました。
また、人形を段飾りにしたのは江戸時代後期ですから、割りと新しいものです。
この時、三人官女や五人囃子が作られたと思われます。
◆三人官女 既婚者・未婚者
三人官女は既婚者と未婚者がいます。
わかりますか?よく見てみましょう。
既婚者は1人で、中央に座っている(立っている場合もあり)官女です。
この官女の顔を見ると、眉が薄く、わずかに開いた口の中が黒くなっています。
平安時代は17~19歳頃が成人とされ、成人すると女性は眉を引き抜いたり剃ったりしました。また、歯にはお歯黒を付けました。
歯医者さんがいなかった昔、お歯黒は虫歯予防にもなったということです。
このことから、中央の官女は既婚者だとわかります。
細工の細かい人形なら、顔も他の2人より大人びて作られています。
未婚者は両脇の2人の女性です。
どちらにも眉毛があり、1人は口が少し開いていますが、歯は白いです。
こんなところに平安時代の名残りがあるのもひな人形の奥床しい点でしょう。
◆三人官女 持ち物
三人官女はそれぞれ手に酒器を持っています。
これは、お内裏様が飲むお酒でしょう。
3人共別の物を持って、それぞれの役目を果たしています。
・向かって右の官女 長柄銚子(ながえちょうし)
この官女は立っていて、左足を一歩前に出していることが多いです。
手には長柄銚子を持っていますが、これは盃にお酒を注ぐものです。
持たせ方は、長い柄が外側に来るように両手で持たせます。
長柄銚子は直接盃にお酒を注ぐので(本酌)、もう1人の加えの銚子より格が高いです。古来日本では、格上のものは左にくるので、この官女は左側に飾ります。
・向かって左の官女 加えの銚子(くわえのちょうし)
この官女は、右足が一歩前に出ていることが多いです。また、口を開けているのはこの官女です。
加えの銚子は、長柄銚子にお酒がなくなった時に注ぎ入れる役目です。
官女の右手はこの銚子を掛けられるように作られています。
・中央の官女 三方(さんぽう)
この官女は座っていることが多いです。
3人の中ではベテランといったところです。
三方の足には3ヵ所に飾りの穴が開いています。また、三方の上には盃が載っています。
つまり、お内裏様にお酒を飲む盃を捧げる役目をします。
◆三人官女 2段目なのは何故?
三人官女はお内裏様とおひな様のすぐ下の2段目に飾られています。それは、女官といえども、宮中の天皇・皇后の側近くで奉仕する女性ですから、身分はとても高かったからでしょう。
いずれも公家の家の娘や奥さんでした。
衣装が華やかということもありますが、彼女たちの身分も考えての飾り方だと思われます。
他に、ひな人形は4段目に「右大臣・左大臣」がいます。
本当の右大臣・左大臣なら、三人官女より遥かに高位ですが、実はこの2人は「随身」と呼ばれる御所の警護を司る役職の者達です。
それもあり、三人官女はお内裏様とおひな様のすぐ下に飾られているのでしょう。